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東京高等裁判所 昭和60年(行ケ)30号 判決

一 請求の原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由について検討する。

1 取消事由(1)について

成立に争いのない乙第一号証によれば、昭和四三年六月一日に発行された雑誌「写真工業」一九六八年六月号の特集「コピーマシンその現況と今後の指向」中に掲載された「ジアゾ方式の特長とプロセス」との論稿中には、ジアゾ複写機は焼付機構、現像機構を主体とするものであること、この焼付機構は、原図と感光紙を密着状態で露光するためのものであり、光源部、圧着搬送部、光源冷却部より構成されていることが説明され、光源部の光源灯につき、「光源灯として現在多く用いられているものは高圧水銀灯、蛍光灯の2種類であるがいずれもジアゾ感光紙の感度とマツチした分光波長の光を多量に放射するものが選ばれている……。コピーの集中管理をするコピーセンターや、高速多量複写を目的とした複写機には効率の高い水銀灯が使用され、オフイスの分散管理には通常の電灯線が利用され、瞬間点灯の利点をもつ蛍光灯が適し、小型簡易型複写機用光源として重用されている。」(同号証四六頁中段末から五行ないし下段六行)と記載されていることが認められる。また、成立に争いのない乙第二号証によれば、昭和四五年一〇月二五日に初版第二刷が発行された単行本「印写工学Ⅲ」の「現像法による画像形成」の章には、ジアゾ複写法について概説されており、その「光源」の項には、もつとも一般に用いられている光源として水銀蒸気ランプすなわち水銀灯が挙げられ、「ケイ光灯および太陽光ランプ……もときどき使用されるが、光源の強度も低く、露光に長時間を要する。しかし価格が低く、小型にすることができる。」(同号証一二四頁下から七ないし五行)と記載されていることが認められる。

そして、右乙第一、第二号証によれば、ジアゾ複写機は、その現像方式の差により、乾式法、湿式法、熱式法の三つに分類されること、乾式法は、感光紙に感光剤としてのジアゾニウム塩と発色成分であるフエノール類、芳香族アミンなどのカプラーが塗布されており、この両成分を反応させてアゾ染料を形成させる促進剤としてのアルカリ成分であるアンモニアガスを現像部において用いて現像を行うものであり、湿式法は、感光紙に感光剤であるジアゾニウム塩を塗布しておき、カプラーとアルカリ成分を現像液に含ませておいて、現像を行うものであり、熱式法は、感光紙にジアゾニウム塩、カプラー、アルカリを発生する物質を混入させた材料を塗布しておき、これを現像部において加熱し現像を行うものであること、いずれの現像方式においても、現像工程に先立つ焼付工程において、原図と感光紙を密着させて露光し、これにより、原図の文字画像部分など光を通さない部分に対応する感光紙上のジアゾニウム塩は残存するが、光を通す部分に対応する感光紙上のジアゾニウム塩は三〇〇〇ないし四五〇〇オングストロームの青から紫外にいたる波長の光を吸収して分解し、発色成分と結合しない無色の物質となるため、感光紙上に原図の文字画像部分に対応する潜像が形成されるものであることが認められる。

右事実によれば、焼付部の光源として瞬時に焼付けに必要な光力が得られる発光灯例えば蛍光灯を用いるかそれとも水銀灯を用いるかの問題と現像部において乾式、湿式、熱式のいずれの現像方式を用いるかの問題はジアゾ複写方法の原理上無関係のことがらであつて、いずれの組合せも可能であることが明らかである。したがつて、右乙第一、第二号証の文献において焼付部の光源について述べているところは、乾式、湿式、熱式のいずれの現像方式においても適用されることを当然の前提として述べていると理解することができる。そうすると、乙第三号証の文献について検討を加えるまでもなく、右に掲記した各文献の記載から、瞬時に焼付けに必要な光力が得られる発光灯を含む焼付部とアンモニアガス発生装置を内蔵したアンモニア現像部を備えたアンモニアガス現像方式の複写機は、本願出願前周知の技術であつたことが認定できるといわなければならない。

原告が乙第一、第二号証の文献の記載内容について主張するところは、右に説示したことから、その理由のないことが明らかである。

したがつて、審決の周知技術の認定は正当であり、この認定の誤りを前提にする原告の取消事由(1)の主張は理由がなく採用することができない。

2 取消事由(2)について

前記当事者間に争いのない請求の原因二の本願発明の特許請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証の一・二により認められる本願明細書の発明の詳細な説明の項の記載によれば、本願発明は、第一に、光源回路と予熱ヒータ回路とを別回路とし、かつ、これらを並列に接続し、光源ランプのランプスイツチとは無関係に予熱ヒータを通電しうるヒータスイツチを設けた点、及び第二に、アンモニアガス発生装置を内蔵したアンモニア現像部に瞬時に焼付けに必要な光力が得られる発光灯例えば蛍光灯を光源とする焼付部を組合せた点を特徴とし(別紙図面参照)、これにより、「ヒータスイツチ21のみをオンにしておきさえすれば必要なときにはランプスイツチ22を入れるだけで即座に露光と同時にアンモニアガス現像が可能であり、従来のように長時間の待機時間を必要としないし、無駄な点灯時間もなくなつて光源ランプ6の寿命も著しく長くでき、而もヒータ11の消費電力は光源ランプや複写機全体の駆動モータ等に較べ極めて僅少であるから経済効果はそれ程損われずに済むものであつて、謂ゆる青焼きコピー固有の最大の難点がすべて完全に解消され、このような一連の作動を前記した極めて簡単な回路構成で確実に得られ、故障も少くなつて安価に実施できるものである。」(甲第二号証の二、一枚目下から二行ないし二枚目一一行)との効果を奏するものであることが認められる。

右の特徴のうち第二の点が本願出願前すでに周知の技術であつたことは前叙のとおりである。

そして、右第一の点につき、その回路構成が引用例の回路構成と同一であるとの審決の認定(審決の理由の要点3)は原告の認めるところであり、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例の発明は、瞬間光量安定光源例えば蛍光灯を有する焼付部と加熱現像部とを具備する感熱複写機の電気回路に関するものであつて、その効果も「感熱複写機の電気回路を上述のごとく構成することにより不使用時に於てもヒータ回路のみには常時給電を行うことが出来るので、加熱現像部は常時現像最適温度に保持される。更に、常時複写操作態勢を保持するため不使用時に全回路を運転しつづけるものに比べ、この発明の電気回路を具備する複写機は、不使用時、ヒータ回路以外の回路への電流が遮断されるので、それだけ電気消費量が減少し、かつ冷却用フアンや駆動モータ等による騒音や振動がなくなる。又、不使用時ベルトの駆動も行われないので、その寿命が延びることになる。」(同号証三欄四〇行ないし四欄七行)との記載から明らかなように、本願発明の効果と同等のものであることが認められる。

そうとすると、瞬時に焼付けに必要な光力が得られる発光灯を含む焼付部とアンモニアガス発生装置を内蔵したアンモニア現像部を備えた周知の乾式ジアゾ複写機に、引用例記載の感熱複写機の回路構成を適用して本願発明に想到することは当業者にとつて容易であるといわなければならない。

原告は、引用例の感熱複写機における加熱ヒータと本願発明における予熱ヒータとは、加熱機構、加熱温度等の差異により本質的に異なる旨主張するが、前示のアンモニア現像部を備えた乾式ジアゾ複写機が周知である以上、右現像部に内蔵されたアンモニアガス発生装置を構成する本願発明の予熱ヒータも本願出願前周知であつたことが明らかであるから、原告が主張する事実は前認定を妨げるものではない。

3 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がなく、他に審決にこれを取り消すべき違法の点は見当らない。

三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。

露光を行うための焼付部Aとアンモニアガス発生装置を内蔵した現像部Bとを備えた乾式複写機において、前記焼付部Aの光源ランプ6を含む光源回路aと現像部Bのアンモニアガス発生用予熱ヒータ11を含む予熱ヒータ回路bとを別回路に構成して両回路a・bを並列に接続し、予熱ヒータ回路bに焼付部Aの光源ランプ6の点滅用ランプスイツチ22とは無関係に予熱ヒータ11を通電し得るヒータスイツチ21を設け、且つ光源ランプ6にはそのランプスイツチ22を入れると瞬時に焼付けに必要な光力が得られるような発光灯を使用することを特徴とするアンモニアガス現像方式の複写機。

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